2005年〜現在の研究スタイル


 私は「社会的コミュニケーション過程におけるオーディエンス研究」ということを主要なテーマとして探求している.様々なセクターが日常的に交差するコミュニケーション空間(家庭,組織,地域社会,特定の時代の日本社会)において,個人ないし集団のメディア・コミュニケーションという経験を,いかに社会変動(あるいは文化・社会的なコミュニケーション構造の変動)や戦後史という社会的な文脈に位置づけるのかという問題構成である.
 
 以下では,最近取り組んでいるいくつかのテーマを概観する.
 一つは,昭和30年代におけるメディア・コミュニケーションという問題である.日本の戦後は,マスメディアという思想の伝播装置が高度に発達した時代であるが,文化装置としてマスメディアを捉えた場合,特に価値観の涵養など,短期ではない,長期的なタームでの影響力について検証する作業が必要であろう.マスメディアによって伝えられたメッセージの中で,どのようなロジックが構築されていったのか.さらにそのロジックに対するオーディエンスの反応はどのようなものだったのだろうか.1973年のオイルショックまでの期間の「高度経済成長」という国家・国民的な動向に対するメディア言説の成り立ちと,そのような言説に対する生活者サイドの順応と抵抗(自律)のプロセスを研究事例として定めた.高度経済成長の端緒となった「所得倍増」という政策を雑誌メディアがいかに報じたのか.時系列にそのロジックの内容分析という形で調査研究している.具体的な素材としては,雑誌メディアを3誌取り上げ,上記政策に関わるイシューについて言説・内容分析を行った.メディア言説の分析手法としてPan&Kosickiによる「フレーミングアナリシス」を援用し,記事中のロジック構造を抽出していった.従来の印象として,「所得倍増」という政策に諸手を挙げて賛成する国民というイメージではなく,多様な言説や主張が並存する中で,特定の言説がヘゲモニーを獲得していく過程を考察した.その第一弾として,メディアにおける表象の問題を扱った.

 また,現在懐古の対象となっている「昭和30年代」について,展示と出版というメディアにおいて,“昭和30年代がいかに語られたのか”,そして生活者側の認識において“昭和30年代はいかに語りようがあるのか”について,事例をもとに考察している.具体的には昭和30年代をテーマとした展示および出版物について,その送り手の意図と観客の反応過程を実証的に分析し,それぞれの昭和30年代イメージの構築性を明らかにした.そこに描き出されるのは,30年代の家庭・地域コミュニティの濃密な人間関係性と徐々に実感される生活革新への希望といった要素であった.メディア表象と生活者の言説や記憶にはある種のシンクロ現象が見られた.

 そして二点目に,地域社会という場に焦点を当てている.ヒアリング調査などの手法を用いたフィールドワークや定量的調査によって,地域社会におけるメディア・コミュニケーションの実像を明らかにしようとしている.具体的な対象としては,地域メディアの代表格であるケーブルテレビ,地域社会に基盤を持っている電子的コミュニティ活動などである.前者に関して言えば,北海道のケーブルテレビ局がブロードバンド(広帯域)化されることで地域住民に与えた影響について,村民に対する定量的(アンケート),定性的(個人インタビュー)調査の両側面から探った.さらには,近年活発な動きが見られるように,地域住民が「メディア活動」という“地域での情報を収集・加工・編集し,それらを何らかの媒体を通じて,流通・伝達していく一連の集団的または個人的行為”によって,マス・コミュニケーションの受容プロセスにおける能動的カテゴリーを一挙に飛び越え,情報発信の担い手になるといった能動性が発揮される可能性を指摘した.これらの活動によって行政やメディア企業体に独占されていた地域の公共情報の産出構造に変容の兆しを見て取っている.

 その他,ニュースサイトにおける社会情報の流通とその受容の日韓比較,リスクメッセージを含むテレビCMの受容といった共同研究にもプロジェクトメンバーとして参画している.


(立正大学『文学部論叢』2006年1月文章より転載)